トップページ


追悼・ワインコラム
  

 

先日ご病気で亡くなられた石橋靖子さん
尊敬する茨城のソムリエの大先輩でした
石橋靖子さんが2005年に書いたコラムです
とても好きな内容だったので再度UPさせていただきます

2012.6/15

 





  
最近、少々首を傾げたくなる事がある。

 インターネットのサイト上にも目に付く、グルメ評論、レストラン批評だ。出版物のなかにも、かなりキワドイも
 のがある。書き手はプロ、アマ、マニア問わず、どちらかというと、辛口、悪口系が受けが良いようだ。
  人間の心の底には、必ず意地悪な気持ちが潜んでいるようで、他人を褒め称えた言葉より、情け容赦なし
 の悪口の方に100倍耳を傾けたくなるのかもしれない。
 時には、実名入りで酷評される記載には、友人、知人もその対象となっていたりする為、とても他人事とは思
 えない。
   ただ、わが身を振り返ってみると、こういった公の場で発表することはないにしろ、やはり似たようなことを友
 人同士で話し合っていたりする。職業柄、ワインを評価するときなども同様で、(もちろん、お客様の前以外
 で)かなりの辛口、悪口の減点法で語っていたり。そんな自分にハタと気づき、「いったい、私は何様のつもり
 だ!?」と反省させられることもしばしばだ。つまり、そんなワインを造っている人、輸入している人、売ってい
 る人達のことも全く顧みない横柄さに。
 また、プライベートでも、本来楽しむべきレストランでの食事にしても、時に分析的に味わいすぎて、はっきり
 言って美味しかったのかどうか、という重要な部分が記憶に残らないことがある。変な話である。
  ソムリエという、味わいの表現力を身につけることが必至の職業故の生活習慣病かな?
 などと思ってしまう。
  そういえば、お正月に見たある料理対決番組でのこと。
 ご存知の方も多いかもしれないが、料理人の持てるべき技術とセンスと味覚をワンスプーンのうちに表現し、
 それを審査員が採点し勝敗を決するというものだ。
 審査員席にはお決まりで、グルメ評論家やタレントさん、女優さんが顔を並べている。
 ある女優さんが、コメントを求められ「***のクリーミーな味わいに、***のつぶつぶの食感が楽しく、
 ***がサクサクとしたアクセントになって・・・大変お〜いしいです!」と良くある手法で評価。すると、当日
 はスペシャル番組だったのか、石原都知事がゲスト審査員になっていて、いきなり「金持ちは、そういう食べ
 方しないんだヨ。
Just美味い!」と一言。
  この後、番組司会役の息子さんが、「おやじ、その言い方は皆さんのヒンシュク買うよ
・・良くないよ・・・」と
 必死にフォロー。
 でも、ある意味その食べ方は、正しい!と応援したくなってしまった。
 一億総評論家時代とも言われるように、万人が何かをプロ気取りで評論したがる時代だ。
 食、その食を提供する場レストラン、ワインをサービスするソムリエ、こちらサイドにしてみると本当に厳しい時  
 代になってきた。
  景気の低迷に翻弄され、食べ手の厳しい評価、辛口批判に耐えなければならない。
 評論家の皆様、ある客観的基準に満たない場合は、全く無視していただいて結構。
 それをクリアした場合、嗜好が大きく物をいう世界なので、好き、嫌いがあって当然だ。
 であれば、お気に召した処だけ、できれば加点法で評価していただけないでしょうか?
  (それじゃ、本が売れないかな?)
 「食文化は、その国あるいは地域の歴史、社会、文化を背景に生まれ育つもの」というが、今、日本のあらゆ
 るバックグラウンドは、かなり意地悪な気質に傾いているように感じてしまう。奇麗事に聞こえてしまうかもし
 れないが、基本である飲食の喜びを、もう
少し本能的におおらかに、楽しむ気質が生まれないかな・・・と願う
 今日この頃だ。


                                                         石橋靖子
Up Date  2005/2/21